改正の概要
公益目的事業に係る収入に関する規律としては、従来、「公益目的事業の実施に要する適正な費用を償う額を超える収入を得てはならない」(改正前認定法第14条)といういわゆる「収支相償原則」が設けられていました。
当該規定の運用については、旧ガイドラインやFAQに基づき、単事業年度で公益目的事業の収支状況を判定し、黒字(収入が費用を超過する状態)が発生した場合はその後2年で同程度の赤字(費用が収入を超過する状態)とすること等によって収支を均衡させることを求めるものでした。
この収支相償原則については、上記改正前認定法第14条の規定の文言もあって、単年度の収支赤字を強いるものであるとの誤解が生じたほか、収支相償の判定において過去の赤字が考慮されず、細かな事業単位ごとの均衡が求められることで、財源の効果的な活用が困難になっているとの課題が生じていました。
このため、公益目的事業に充てられるべき財源の活用促進という制度趣旨を確保しつつ、法人の経営判断で財源の配分を行い、公益目的事業への効果的な活用をより促進するため、公益目的事業の収入と適正な費用について、中期的に均衡を図るという趣旨が明確になるように改正が行われました。
中期的収支均衡とは
公益法人は、公益目的事業に係る収入をその実施に要する適正な費用に充てることにより、5年間で収支の均衡(以下「中期的収支均衡」という。)が図られるようにしなければなりません。
つまり、公益目的事業に充てられるべき財源の最大限の活用を促すため、収入に見合った公益活動の実施を確保する規律となります。
規律の概要
公益目的事業全体について、過去に発生した赤字も通算した収支差額に着目して行うことが認定規則において規定されました。また、将来の公益目的事業の発展・拡充を積極的に肯定する観点から、公益目的事業に係る従来の「特定費用準備資金」及び「資産取得資金」を統合しつつ、資金活用の柔軟性を高めた仕組みとして、「公益充実資金」が創設され、当該資金の積立ては、法律上、中期的収支均衡において費用とみなすこととされます。
費用について
費用は「適正な」範囲である必要から、謝金、礼金、人件費等について不相当に高い支出を公益目的事業の費用として計上することは適当ではないとされております。
なお、公益目的事業に付随して収益事業等を行っている場合に、その収益事業等に係る費用、収益を中期的収支均衡の計算に含めることはできません。
中期的収支均衡の判定について(通常の算定方法)
毎事業年度終了後、以下のプロセスで当該事業年度の収支や残存剰余額(黒字)などに関する算定を行い、その数値及び計算の明細を行政庁に提出する必要があります(当該情報が令和6年会計基準に従い、財務諸表の附属明細書において表示してある場合は別途の提出は不要)(認定規則第46条第1項第4号及び同条第3項)。
また、中期的収支均衡を図るべき期間(内閣府令で定める期間)は、5年間とされており、発生から5年間を超える残存剰余額がなければ、当該法人の中期的収支均衡は図られているものとされます(認定規則第15条及び第21条)。
- 旧制度の収支相償との違いは?
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旧制度の収支相償において実施していた、公益目的事業の単位ごと(公1、公2・・・)の収支の比較は行わないこととなります。ただし、事業単位ごとの収支の状況は、財務諸表(令和6年会計基
準では「活動計算書の注記(会計区分及び事業区分別内訳)」、平成20年会計基準では正味財産増減計算書内訳表)において開示することとされており、構造的に収入が費用を上回る事業がある場合には、行政庁が公益目的事業該当性の観点から確認を行うことがあります。
当該事業年度における、公益目的事業に係る「収入額」と「費用額」の比較を行い、以下により、
「年度剰余額」又は「年度欠損額」を算定します。
(収入額≧費用額の場合)
年度剰余額=収入額ー費用額
(収入額<費用額の場合)
年度欠損額=費用額ー収入額(法人の判断で年度欠損額は0とすることができます)
- 当該事業年度に年度剰余額が生じた場合
前事業年度から繰り越した過去4年間の各事業年度の欠損額(その合計額を「過年度残存欠損額」という。)があれば、これらと通算を行い年度剰余額の全部又は一部を解消し、通算後に残る額を当該事業年度の「暫定残存剰余額」とします。 - 当該事業年度に年度欠損額が生じた場合
前事業年度から繰り越した過去の各事業年度の剰余額(その合計額を「過年度残存剰余額」という。)があれば、これらのうち発生事業年度が古いものから順に通算を行い、過年度残存剰余額の全部又は一部を解消します。
当該事業年度に発生した暫定残存剰余額がある場合又は当該事業年度に生じた欠損額で解消し切れていない過年度残存剰余額がある場合には、それらの全部又は一部を以下の事項に充てることで、解消することができます(解消策によって解消される暫定残存剰余額又は過年度残存剰余額を「解消額」という)。
- 公益目的保有財産の取得又は改良(同条第1号)
- 災害その他の公益目的事業の実施が著しく困難となる事態として内閣総理大臣が定めるものにあって、公益目的事業を実施するために必要な資金の不足を補うために不可欠なものとして行った借入れに係る元本の返済(同条第2号)
- その他行政庁の確認を得た支出(同条第3号)
中期的収支均衡が図られているかを判定するために必要となる、過去の赤字との通算(上記STEP2)及び剰余額の解消(上記STEP3)を経てなお残存する当該事業年度分と過年度分の黒字(当該事業
年度に生じた残存剰余額及び当該事業年度前の各事業年度に係る残存剰余額)を算定します。
また、翌事業年度に繰り越すことができる赤字(当該事業年度に生じた残存欠損額及び当該事業
年度前の各事業年度に係る残存欠損額)を算定します。
行政庁による監督
中期的収支均衡の制度は、公益目的事業の実施に当たり、仮に多額の剰余額が生じることがあったとしても、5年間という中期的な期間内において計画的に解消することができる制度としています。
公益法人が中期的収支均衡を欠くと判定された場合には、公益法人が適切に財源を活用しておらず、公益目的事業の構造に課題があるとして、そのような法人を放置することは公益法人制度への信頼を損ねることから、行政庁は、原則として、勧告を行い、事業構造の見直し等を求めることとします。
他方、中期的な期間における収支状況は基本的に法人の経営判断に委ねるべきであり、行政庁は、毎事業年度の定期提出書類によって法人の状況を把握するにとどめ、中期的な期間が経過する前には、原則として監督上の措置や指導を行わないものとします。
ただし、4年前の残存剰余額が多額であり、当該剰余額発生後の各事業年度も黒字が継続し、事業の拡大等が伺われないなど、そのままの事業状況では翌事業年度には中期的収支均衡が図られていないと判定される可能性が高い場合には、事業の見通し等について、報告徴収を行うことがあり得ます。
過去の数値がない場合
新制度施行後最初の事業年度や公益認定を受けた事業年度においては、過去の数値(過年度残存剰余額、過年度残存欠損額及び過年度特例残存欠損額)が存在しないことから、これらの数値に係る部分は考慮せずに、当該事業年度に生じる残存剰余額等を算定します(①通常の算定方法の場合、残存剰余額=年度剰余額-解消額と、残存欠損額=年度欠損額となり、②特例算定方法の場合、特例費用額における過年度特例残存欠損額は0として算定する。)。