公益充実資金とは、公益目的事業に係る特定費用準備資金(旧規則第18条)及び資産取得資金(旧規則第22条第3項第3号)を統合したものです。
法人の実情や環境変化に応じた柔軟な資金管理が可能となるよう、使途変更の柔軟性等を高めたものとして創設されました。
新制度の中期的収支均衡においては、将来の公益目的事業の発展・拡充を積極的に肯定する観点から、認定法第14条において、公益目的事業を充実させるため将来において必要となる資金(「公益充実資金」)として積み立てたものについては、中期的収支均衡の判定上費用とみなすこととされています。
なお、細かな事業単位ではなく大括りの設定(事業単位を横断する使途の設定を含む。)ができるほか、透明性の確保を前提に、事業環境の変化等に対応した資源分配(公1から公2への目的変更、事業の実施から資産取得への変更を含む。)を行うことができることとされています。
また、その積立ては中期的収支均衡だけでなく、他の財務規律(公益目的事業比率及び使途不特定財産規制)においても費用の算定上加味され、また、公益充実資金は、使途不特定財産規制における控除対象財産となる効果があります。
公益充実資金として認められるためには、一定の使途具体性(目的、時期、必要額等)等が必要であり、以下を満たす方法で積立てが行われる必要があります。
① 公益充実資金の目的
将来の特定の活動の実施又は将来の特定の公益目的保有財産に係る資産の取得若しくは改
良(以下「公益充実活動等」という。)に係る費用等の支出に充てるために必要な資金として積み
立てられるものである必要があります。
例えば、既存事業を維持するために将来の収支変動に備えた積立てや将来の収入減少に備えた積立ても可能ですが、繰越金、予備費等、将来の単なる備えとして積み立てる場合は本要件を満たしません。
「必要な資金」というためには、当該公益充実活動等が実施されることの見込み(蓋然性)があることが求められます。
当該特定の活動の実施に当たっては、定款や変更の認定(認定法第11条)等を要することも想定されるところ、公益法人の機動的な事業展開のために必要な資金を確保できるよう、行政庁による公益目的事業の変更認定を受ける前であっても、その申請を行政庁に行っている、理事会で決定した計画等で事業内容を確認できるなど具体的に活動の実施が見込まれる場合には、公益充実資金の目的として当該事業に係る公益充実活動等の設定が可能です。
②必要な情報開示がなされていること(認定規則第23条第1項第2号及び第46条)
当該事業年度の終了後、次に掲げる事項を記載した書類(当該情報が令和6年会計基準に従い、財務諸表の附属明細書において表示してある場合は当該財務諸表)(認定規則第46条第1項第7号及び同条第3項)を作成し、備え置くとともに、行政庁に提出する必要があります。
また、法人自らも、インターネットの利用その他の適切な方法により当該情報を速やかに公表する必要があります(認定規則23条1項2号)。
- 当該事業年度の末日における公益充実活動等ごとの内容及び実施時期(認定規則第23条第1項第2号イ)
- 公益充実資金の目的とする公益充実活動等は複数設定することも可能であることから、それぞれの公益充実活動等ごとに内容及び実施時期を明らかにする必要があります。
- 実施時期が例えば10年先などの将来を予定している場合には、不確実性が大きくなるため、その事情等を明らかにする必要があります。
- 当該事業年度の末日における積立限度額(公益充実活動等ごとの所要額の合計額をいう。以下同じ。)及びその算定根拠並びに公益充実資金の額(認定規則第23条第1項第2号ロ及びニ)
- 必要以上の資金が積み立てられることがないよう、公益充実活動等ごとに必要となる金額(所要額)を算定、各公益充実活動等の所要額の合計額を積立限度額とし、それらの額をその算定根拠とともに明らかにする必要があります。
所要額の見積もりは、過去の実績や類似の事例等を踏まえ、その時点における合理的なものとなっていれば足ります。実施時期が近づくことに伴う見積もりの精緻化に伴い、必要な所要額の見直しを行う必要があります。
- 必要以上の資金が積み立てられることがないよう、公益充実活動等ごとに必要となる金額(所要額)を算定、各公益充実活動等の所要額の合計額を積立限度額とし、それらの額をその算定根拠とともに明らかにする必要があります。
- 当該事業年度の公益充実資金の取崩額及び積立額(認定規則第23条第1項第2号ハ)
- 財務規律においては、公益充実資金の積立ては費用とみなし、取崩しについては収入(又は費用の控除)として加味されることから、当該事業年度における公益充実資金の取崩額及び積立額を明らかにする必要があります。
- 積み立ての段階では、積立額と各公益充実活動等は紐付けられず、各公益充実活動等にいくら積み立てたのかは定まらないため、公益充実資金全体としての積立額を、取崩しの段階では、実際に公益充実活動等が実施されていることから、各公益充実活動等に充てた公益充実資金の取崩額を明らかにする必要があります。
- 前事業年度の末日における公益充実資金に関する情報(認定規則第23条第1項第2号ホ)
- 中期的収支均衡の算定において、公益充実資金の積み立て・取崩しを反映するため、当該事業年度の公益充実資金の情報に加え、前事業年度の末日における公益充実活動等ごとの内容及び実施時期、積立限度額及びその算定根拠並びに公益充実資金の額を明らかにする必要があります。
③公益充実資金を公益充実活動等以外の支出に充てるために取り崩す場合について特別の手続きが定められていること
- 公益充実資金はその積み立てた総額を管理するものであるから、公益充実活動等の実施時期や優先順位の変更により、当初想定していた公益充実活動等から他の公益充実活動等に資金を流用することは、公益充実資金の「公益充実活動等以外の支出に充てるため取崩し」には当たりません 。
- それとは別に、法人として予期せぬ事態に対応するための資金が必要になる場合、社会経済の変化等に対応して機動的に公益目的事業を実施するための資金が必要になる場合など、状況変化等に応じて、公益充実資金を目的とした公益充実活動等以外の支出に充てるために取り崩すことは、資金の有効活用の観点から妨げられるものではありません。
- 他方、公益充実資金は法人の意思で一度使途を決定し、財務規律における効果を持つことにもなることから、目的外で取り崩す場合について法人としての手続が定められていることが必要とされます。
- 例えば定款に「公益充実資金の管理は別途、理事会で定める手続による」と定め、目的外取崩しは理事会決議に委ねるということが考えられます。