実務で「人格のない社団」に関する対応をしたことがあります。会計監査だけではなく、税務でもあります。
先日、権利能力のない社団の残余財産をどのように処分すればよいかという質問がありました。
権利能力のない社団の具体例は?
名称だけで判断はできないですが、よく例であがるのは「学校のPTA」や「マンション管理組合」といったものがあります。法人のようであって法人ではないものであり、良く分からないこともあります。学説も多く有るところです。
その他、同窓会、○○サークル、法人格を取得できるが手続き上の煩雑さ等を理由に法人格を取得していない団体も該当します。
権利能力のない社団
法人格を有しない社団のことを権利能力のない社団といいます。
租税法では、人格のない社団等(法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるもの)といいます。
(例えば、法人税法第2条第1項第8号)
課税義務主体でみる分類
- まず、個人か団体に分かれます。(個人については、所得税が課されます)
- 次に、団体は法人格の有無で分かれます。(法人格が有る場合には、法人税が課されます)
- 法人格が無い団体については、組合かそうでは無いかで分かれます。
- 組合については、所得税が課されます。
- 組合で無いものについては、法人税が課されます。
(税大論叢第18号 佐藤孝一 「人格のない社団の成立要件についての一考察」 185頁)
権利能力のない社団の4要件
- 団体としての組織を備えていること
- 多数決の原則が行われていること
- 構成員が変更しても団体そのものは存続すること
- その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定していること
(最判昭和39年10月15日民集18巻8号1671頁)
労働組合は権利能力のない社団なの?
労働組合は、2つの可能性があります。
登記をしない場合には、「権利能力のない社団」であり、登記をすると法人となります。
私はいずれのパターンも監査をしており、最初は戸惑いました。片方は、登記簿があり、もう一方は登記簿が有りません。
登記簿がある法人については、その代表者名義で登記されております。
権利能力のない社団の資産の帰属は?
権利能力のない社団の資産は構成員に総有的に帰属します。(最判昭和39年10月15日民集18巻8号1671頁)
権利能力のない社団の債務の帰属は?
最高裁判例により、権利能力なき社団の代表者が社団の名においてした取引上の債務は、その社団の構成員全員に、一個の義務として総有的に帰属するとともに、社団の総有財産だけがその責任財産となり、構成員各自は、取引の相手方に対し、直接には個人的債務ないし責任を負わないと解するのが、相当であるとされております。
(最判昭和48年10月9日民集第27巻9号1129頁)
権利能力のない社団の残余財産の帰属は?
権利能力なき社団の財産は、実質的には社団を構成する総社員の所謂総有に属するものであるから、総社員の同意をもつて、総有の廃止その他右財産の処分に関する定めのなされない限り、現社員及び元社員は、当然には、右財産に関し、共有の持分権又は分割請求権を有するものではないと解するのが相当である。
(最判昭和32年11月14日民集第11巻12号1943頁)
この判例では、労働組合についても言及があります。
法人格を有する労働組合について
法人格を有する労働組合については、労働組合法一二条二項により、民法七二条が準用せられ、組合解散の場合の残余財産の帰属については、民法七二条三項の準用により、定款をもつて帰属権利者を指定せず又はこれを指定する方法を定めなかつたときは、主務官庁の許可を得、且つ総会の決議を経て、其の法人の目的に類似した目的の為に其の財産を処分するものとせられている
法人格を有しない労働組合について
法人格なき労働組合についても、たとえ、所論のような解散に準ずる分裂の場合であったとしても、その残余財産を脱退した元組合員に帰属せしめることについては、すくなくとも分裂当時における総組合員の意思に基づくことが必要であつて、これなくしては、脱退した元組合員が当然にその脱退当時の組合財産につき、共有の持分権又は分割請求権を有するものと解することはできない。
まとめ
人格のない社団の残余財産の帰属については、これらからみると、その人格のない社団に帰属するのであって、特定の構成員に帰属させるという場合には、解散時にその旨の決議が必要であるということになるかと思います。